内製回帰厨じゃなかったのか?
このテーマを書いていて、ところどころ「業者に頼れ」と書いていますし、外部サービスの活用を積極的に推奨していますが、もともと私個人は「内製回帰厨」を自称していました。
「SIerなんかに丸投げするな、自力で作れ。」
ビジネス環境を理解し、要件を取りまとめるところから、開発してリリースして運用保守するところまで一貫して同じ人間が関われ。
ユーザーヒアリングしてRFP作って提案受けて相見積とって、フェーズごとに検収して、なんてやっているうちに時間がどんどん過ぎていく。それで勝負になるのか?
ネットワークやサーバー構成ちょっといじる程度で外部に頼って時間とお金と機会を無駄にしている場合なのか?
そう吠えていました。そこからすると、言っていることが違うように見えます。
その辺りについて、念のため触れておきたいと思います。
内製がメリットを生む条件
ちょっとMECEじゃなくて気持ち悪さが残るのですが、おおよそこんなものと考えています。
- 「社内にビジネスのスピードでものを考えてモノが作れる体制がある/その方向に向かっている」
- 「内製ならではの独自性、柔軟性により競争力が生まれる」
- 「内製にもデメリットがあるが、そのデメリットを受け入れてでも欲しいメリットがそこにある」
能力もなければ方向性も確たるものがないのに内製にこだわっても、出来上がるものの技術的裏付けは危うく、そして出来上がるまでも時間がかかります。
内製して作るものが車輪の再発明のレベルを超えないのであれば、その時間とお金は別のことに使ったほうがリターンが大きい、ということもたくさんあることでしょう。(車輪の再発明そのものには意味があるケースもありますので、全否定はしません。)
結局ビジネスである以上、ビジネス上の目的があって、その実現を支えるものとしてのITです。
モノや手法には一長一短あるなかで、何に価値を見出すか、何が最終目的の実現に寄与するか、答えは1つじゃないですし、時間の流れでも変化しますから、考えながら取り組むしかないです。
一つの事例としての「ござ先輩」の存在
ござ先輩とか、まさにこの理想を体現するかの如く動いていて、素直にすげーと思うんだけど、ござ先輩が何かしらの理由で一時的なり長期的なり永続的なりあの会社を離れることになってしまったらどうなってしまうんだ、っていうところが心配でたまらない。
はっきりいって、私が同じ状況に置かれたら、外部のできあいのサービスを選んでいたと思います。
でも、その辺を考慮した上で、リスクをエスケープじゃなくてテイクしたんだと思って見ています。そして、ちゃんと結果を出してる。ほんとにすごいと思います。
自分は1人ではそこまでのスピードは出せない。かなわないです。
そこで個人に依存するマイナスリスクより、創り出したものによって得られるメリットが上回ればいいんですけど、私自身はそこに至らない、と、卑下でなく率直に認めるところです。
私も少しはプログラミング業務に携わったことがありますが、どちらかと言えば「いわゆるSE・コンサル」で、お客さんと開発者の間をつなぐポジションでの経験が多いことも影響しているでしょう。同じ人間が要件定義から開発まで一気通貫でやったほうがイイって思いながらも、そうじゃないスキームで長らく飯を食べてきたわけで、そのスキームが、私にとっては一番、「結果を残しやすいパターン」になっており、これを転換するにはかなりの努力を必要とし、その努力がまだ足りてないなと思う次第。
そしてまた、会社を転々としているタイプでもあるから「自分がいない、その会社の未来」を常に意識し、さほど技術力を必要としないレベルで、広く利用されているものをそのまま利用して、旧にその面倒を見ざるを得なくなった人がハマりにくいシンプルな構成を心がけ、そして、資料に残すという意識を強く持つことが、ココ数年の仕事の仕方になっています。
「システム」という言葉は、即ITという発想に陥りがちですが、業務・制度面含めた「仕組み」という言葉に置き換えて物事を捉えるようにしています。
そして、「システムを作る仕事」に携わるときは、「誰が欠けても回る組織・仕組み」が理想で、でも現実的にはとてもむずかしいから(現実にできている組織も存在してることは知ってる)、「誰かが欠けた時、最小限の負荷でフォローができる組織・仕組み」としてのシステムを作ることを掲げています。
そうなると、正直なところ、技術的には自身が持っているテクニカルスキルよりも低いところで済む用事も多いです。
高い技術を使うことが正しいのではなく、適した技術をつかうことが正しい、っていうトートロジー的なあれになってしまいますが、深さよりも広さが重要で、広く知っているなかで、適したものを選び組み合わせていくことが必要になってきます。
プログラムや先端技術とはまた別ですが、広さを得るために知らない領域に踏み込むことも多々あって、それはそれで面白いものです。
そして、広く浅くを進めると、結局は1つ1つの領域にフォーカスした場面ではその領域に詳しい方に「頼る」ことになります。
発注者として居丈高になるのではなく、パートナーとして対等に、信頼関係を結ぶつもりで、とにかく謙虚さを忘れないことです。
自分の知識、スキルというものを客観視する謙虚さで、パートナーとなる業者さんに対しても謙虚な姿勢でお付き合いしましょう。
初期段階で必要となるITインフラに関して
ここ数年関与しているような小さな企業、これからいろいろ整えていく段階にある企業ですと
「喫緊の課題がITというよりOAの領域で、独自性でもって付加価値を高めるような要素が少ない」
という要素も、内製云々にこだわらないことに拍車をかけています。
PC普及以前なら、電話とFAXくらいでした。
何も考えずに目の前においてあって、当たり前のように使える状態。
PC、インターネットの普及した今の時代、IT系企業や大企業に籍をおいていると気づかないですが、まだまだそんな当たり前のように使える状況になっていないところも多いです。
「よくわかんないけどPCがあって、よくわかんないけど、WordとExcelが使えて、よくわかんないけどプリントアウトできて、よくわかんないけどインターネットにつながって、よくわかんないけど。。。」
という状態を当たり前のようにする。
知っている人はさっさとできますが、知らない人がイチから手をつけるには、ワリと面倒で、そして他社に差別化するというよりは、スタートラインに立つための作業、というレベル。
だったら、負担になるくらいなら、詳しい人にお願いしてしまった方がいい。
もうすでに枯れ切った領域ですので、値段もこなれています。
立ち上がりの段階の企業と取引すると、その先も続けば、企業の成長に合わせて仕事も増えますから、それを見越して好意的に対応してくれるところも多いです。*1
頼む側としても、良い関係を気づいておくと、利用開始後のトラブルや問い合わせにもスムーズに対応してもらえますし、社内に詳しい人がいないことに、それほどのデメリットは感じない状況も作り出せるでしょう。
今回触れるOA的な領域にかぎらず、分野によっては、外部に依存するデメリットがそれほど大きくないケースもありますので、ケースバイケースで活用すればいいと思います。
ただ、傾向として、インフラ、OSI階層モデルの低い方などの話は、基本的に差別化しにくい部分で、自力でやるメリットが得にくい世界だと思います。
googleのような企業は、ハードウェアの部分から手を入れて、ただ他所から調達して入れるよりも安価で高速なインフラ作りを志向しました。そこが他社と差別化をする勝負どころだからで、あれを外部を使ってやろうと思っても難しいでしょう。
「お見合いのおばちゃん」
プロセスやアプローチについての宗教論争にハマってはいけません。
大事なのは、相手=会社に、もっとも貢献できるやり方、在り方です。
内製したほうがよりメリットが大きければ内製するし、そうではないなら外部を活用する。目指すものがあって、そのための選択肢がある。極めてシンプルな話です。
そして、外部活用を選択した場合、必要に応じて、その外部業者を探してきて、うまく要望を伝える仲介者が必要になります。
仲介者は、仲介する双方の言葉を正確に理解して正確に伝えることが大事です。
えてしてITの世界にかんして、仲介される双方は、別々の世界の人間です。使う言葉、注意意識もまったく異なります。
結果的に内製であれ外製であれ、違う価値観を持つ人々の会話がうまくつながらないと、必要なものが必要な形で得られません。
そこを取り持つ人が必要です。
そして、残念ながら、うまくいってないケースが多い。
結果、両者が不幸。
自分の会社の課題に適した業者や製品を探してきて、引き合わせる。
コンサルタントのように問題解決スキルが高いとか、エッジのきいたプログラマみたいに特定技術において圧倒的な強みをみせるわけではないけど、条件を咀嚼しつつ引き合わせる「お見合いのおばちゃん」みたいな存在。
間を取り持ってコネクションを作った後は、具体的な業務担当者と外部業者で直接やりとりしてもらってもいいわけで、まさに「あとは若いもの同士で」メソッド。
それが、外部活用で結果を出す情シスの在り方だと考えています。
でも、自ら手を出す業務こそが、感謝をダイレクトに受け取れる仕事だったりする
内製の醍醐味とは、まさにコレ。
良い業者、良い製品をを探してきて、導入も丸投げ、保守も丸投げ。
それでも「こないだ入れたサービス、便利だね」って声はいただけます。嬉しいです。
でも、内部の人のちょっとしたリクエストや問い合わせに、「**さんに確認しておきます・依頼しておきます」と答えるのと、自分でちょちょいと対応してしまうのでは、やはり「ありがとう」といってもらえる数や重さが違うんですよね。
なので、保守契約付きの導入委託で外部活用しつつも、ちょっとしたことには自分で対応できるよう、導入フェーズでは業者さんのやることをつぶさに観察して、あるいは一部分は一緒に作業させてもらって、少しでも多くのことを吸収しておきたいものです。
まとめ
- 内製・外注それぞれメリットがあり、それをしっかり吟味する
- 立ち上がり段階で必要となるITインフラの場合、内製で得られるメリットはさほど多くはない
- よって、今回のシリーズ記事は外部活用推進寄りに立つ
- 謙虚さ重要。依頼相手となる専門業者に対して居丈高にならず、パートナーとして対等なお付き合いを。
- 中小事業所の兼任情シスが外部活用で結果を出すには「お見合いのおばちゃん」的なポジショニングで。
*1:まったく信用の積み上げがない企業は調達も難しいですけど、それは何の取引でも同じ